記事

【弁理士が解説】なぜAI技術の特許を取るべきなのか? 取得事例と知財戦略をご紹介

ここ数年でAI関連技術の国内特許出願状況は飛躍的に伸びてきました。なぜ今これほど出願件数が伸びているのか?特許は取得するべきなのか?取得した後にどのように活用できるのか?AI特許に関する疑問を、特許のプロである弁理士が解説いたします。

 


AI関連技術の特許出願数は急速に伸びている


まず、AI関連技術の特許の種類についてご紹介したのち、その出願数の推移をみていきましょう。

 

AI関連技術の特許の種類

AI関連技術の特許は大きく分けて2つの種類があります。

①AIのアルゴリズム(AIコア発明)

ニューラルネットワーク、深層学習、サポートベクタマシン、強化学習等を含む各種機械学習技術のほか、知識ベースモデルやファジィ論理など、AIの基礎となる数学的又は統計的な情報処理技術に特徴を有する発明

(引用元:特許庁「AI技術の出願状況調査 報告書」 2019年7月 p2 )https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/ai/document/ai_shutsugan_chosa/hokoku.pdf

簡単にいうと、AIのアルゴリズムとは、いわゆるAIのエンジン部分。例えば、現在AIの主流であるディープラーニング手法を用いた時には、どのようなニューラルネットワーク(*)の構成になっているか、が対象になります。(ディープラーニングはニューラルネットワークの構成によって精度や結果が変わってきます)

(*)ニューラルネットワーク…生物の脳の神経ネットワークをモデルとしたコンピューターの計算式の組み合わせ

 

 

 

 

 

②AIの適用技術

画像処理、音声処理、自然言語処理、機器制御・ロボティクス、診断・検知・予測・最適 化システム等の各種技術に、①のAIコア発明を適用したことに特徴を有する発明

(引用元:特許庁「AI技術の出願状況調査 報告書」 2019年7月 p2 )https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/ai/document/ai_shutsugan_chosa/hokoku.pdf

つまりAIのアルゴリズムそのものではなく、「AIをどのように適用するのか」といった応用部分が対象になります。これが特許出願のしやすさに大きく繋がるのですが、詳しくは後ほどご説明します。

これまでは、AIの特許=「①AIのアルゴリズム(AIコア発明)」というイメージが一般的でした。しかし「AIのアルゴリズム」の場合、特許を取得しても、その部分は表に出ないため、その特許を誰かが使っているかの検出が一般的にはできません。つまり、権利が侵害されているかどうかを調べるのが困難というマイナス面も持っているのです。

 

一方、「②AIの適用技術」が特許保護対象であることは十分知られていませんでしたが、特許庁で平成31年に事例が公開されて認知が広がりつつあります

 

 

「AI関連技術」の出願伸び率

ここで出願件数の伸び率を見てみましょう。
下図は2010年の出願件数を100%とした場合の、以降の伸び率を表しています。

特許庁「AI関連発明の出願状況調査 報告書」2019年7月 より

ほぼ全ての分野で2017年の出願件数は 2010年の2倍以上となっていますことが分かりますね。中でもG05B 制御系・調整系一般やB25J マニピュレータ)といった、システム制御・ロボティクス関連の分野が非常に高い伸び率を示しています。G05Bは、異常監視、生産管理、安全装置、工作機械の制御等を含む分類です。ものづくり技術全般でAIの適用が急速に拡大していると考えられます。

 


AI適用技術の特許のポイント


では、「AI適用技術」とは、どのあたりが特許の対象となるのでしょうか?
ここでは製造業を例にとってご説明します。

AI適用技術というのは、例えば「熟練者の感覚・行動」を解析して、どのような情報を知覚しているのか、どのように行動を行なっているのかを抽出し、それをAIで実現する技術です。

金属の加工業務があったとします。熟練者であれば、長年にわたって培った技能により金属材の加工を早く・正確に実行できますが、新人は同じ加工をするにも時間がかかり、精度も低くなります。理想は熟練者を増やしてより多くの案件を熟練者が対応する事ですが、製造業では人材不足や熟練者の高齢化により技術の継承に問題を抱えています。

この熟練者の動きをAIで実現する、というのが「AI適用技術」です。「AIのアルゴリズムをどう用いて、熟練者の感覚・行動を実現するのか」が、特許のポイントとなるのです。用いるAIのアルゴリズムは特許のポイントには含まれません。

 


特許取得の事例


より具体的に、特許取得の事例をみていきましょう。

特許庁「AI関連技術に関する事例の追加について」(平成31年1月30日)の資料より、AI適用技術の事例をご紹介します。

記載要件:事例49 体重推計システム(上記資料P21)

【請求項1】 人物の顔の形状を表現する特徴量と身長及び体重の実測値を教師データとして用い、人物の顔の形状を表現する特徴量及び身長から、当該人物の体重を推定する推定モデルを機械学習により生成するモデル生成手段と、人物の顔画像と身長の入力を受け付ける受付手段と、前記受付手段が受け付けた前記人物の顔画像を解析して前記人物の顔の形状を表現する特徴量を取得する特徴量取得手段と、前記モデル生成手段により生成された推定モデルを用いて、前記特徴量取得手段が取得した前記人物の顔の形状を表現する特徴量と

前記受付手段が受け付けた身長から体重の推定値を出力する処理手段と、を備える体重推定システム。

簡単にいうと、人物の顔画像と身長情報から、体重が推定できるというシステムの特許です。ここでは、体重推定に用いられるAIアルゴリズムではなく、「AIアルゴリズムを用いて人物の顔画像と身長情報から体重を推定する」というシステムそのものが特許の対象として出願がされました。

 

しかし、残念ながらこの段階では特許としては認められませんでした

人物の顔画像と身長情報から体重が推定できるという裏付けがない、つまり「人物の顔画像・身長情報と、体重との間に相関関係があることが認められない」と判断されたからです。

 

そこでこのケースでは、人物の顔画像ではなく「フェイスライン角度」をデータとして用いるという構成に変更し、再申請しました。

【請求項2】 前記顔の形状を表現する特徴量は、フェイスライン角度であることを特徴とする、請求項1に記載の体重推定システム。

引用元:「AI関連技術に関する事例の追加について」(平成31年1月30日)p21
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/ai_jirei/jirei_tsuika.pdf

 

その結果、無事特許性を有するとの判断に至りました

フェイスライン角度および身長情報と、体重との間には統計的な相関関係が存在していると認められたのです。

 

このように、利用されているAIアルゴリズムではなく、AIアルゴリズムをどこに適用して何を行うのか、というのがポイントになるのが「AI適用技術」の特許なのです。

 

 

 

 


なぜ「今」特許を取得すべきなのか?


では、どうして「AI適用技術」の特許を取得するべきなのでしょうか?
それには大きく3つの理由があります。

  1. ブルーオーシャンである
  2. 根拠があればアイデアだけでも出願可能
  3. 取得した特許の利活用が可能

 

1.「AI適用技術」はまだブルーオーシャン?

日本では、一番最初に出願した人に特許権が与えられます。早いもの勝ちになるため、いち早く出願をした方が良いのです。
さらに、AI適用技術の場合はブルーオーシャンの可能性があります。

先ほど事例にあげた、製造業の熟練者の技能を思い出してください。
「熟練者が行なっていたこと」は、「技術」ではなく、「技能」となります。技能というのは、長年にわたりひたすら現場で磨き上げた技。その人しか再現できず、客観性なく伝承化が難しいものです。

AIを利用することで、その技能がだれでも同じような結果がえられる「技術」になりました。熟練者や技能がある方にとっては「当たり前のこと」が、AI技術を適用することで、「技術」となり、特許の対象になります

日本はものづくり大国ということもあり、生産性向上のための「技能」が磨かれてきた国でもあります。「AIによって匠の技をデジタル化」することで、多くの特許を取得することが可能な恵まれた環境が整っているともいえるでしょう。

「当たり前のこと」だから…と、特許出願がされていない今だからこそ、特許取得の可能性が広がっています。

一方で、「技能」を十分に保有していない外国であっても、将来的にデータサイエンスの力に頼ることでこれまで述べたような「技能」の源泉を発見できる可能性も考えられます。日本の技能を日本の技術として知財保護し、日本の産業の優位性を守るということも重要な視点だとクロスコンパスは考えます。

 

2. 根拠があればアイデアだけでも出願可能

AIアルゴリズムをどこに適用して何を行うのか」のアイデアだけでも特許は出願可能です。実際にAIを導入して運用する前に、特許の取得ができるのです。

例えば製造業であれば、「匠の技をどのようにAI化させることができるのか」という部分について実施可能であることが明らかなものに関しては、アイデア先行で特許出願をしても特許の取得が狙えます。AIの知識や活用方法を熟知しているAIエンジニアとAIの適用技術に強い弁理士がいれば、特許出願することもスムーズです。

ブルーオーシャンの今だからこそ、「アイデア段階」で特許出願をすることも視野にいれてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

3. 権利の利活用が可能

最後は権利の利活用です。特許として取得した「AI適用技術」は、流通可能なサービスとして販売することが可能です。
どのようにするのか、一例をご紹介します。

クロスコンパス では、AI生成のプラットフォームを提供しています。そのプラットフォームでは、AIアルゴリズムをAIの知識がない方でも生成することが可能です。

このAI生成プラットフォームで生成したAIアルゴリズムを利用して、知財保護された「AI適用技術」を使えば、「AIアルゴリズム + AI適用技術」 の組み合わせをサービス化して販売することができるのです。

これにより、製造業において重要な課題とされている、「モノ売りからコト売りへの転換」を実現することができます。

匠の技術をAI化やデジタル化してサービス販売している企業が少ない今こそ、権利の利活用の可能性が見込めます。

 


特許取得の流れは?


一般的な特許取得の流れは、「発明」→「特許出願」→「特許庁での審査」→「特許権の取得」となります。

特許が認められなかった場合、特許庁から拒絶理由通知が送られる場合があります。拒絶理由とは特許の要件を満たさなかった根拠です。その場合出願者は、拒絶理由通知に対して反論し拒絶理由を解消する対応が可能です。

 

特許出願で必要な書類や手続き

特許を出願するにあたっては、所定の様式に従って出願書類を作成する必要があります。
書類には、

  • 願書
  • 特許請求の範囲
  • 明細書
  • 図面
  • 要約書

などが必要です。

また、事前に公開特許公報などを調査して、これから特許出願しようとしている発明がまだ特許で保護されていないかを確認する必要があります。

特許の出願から特許権の取得までを自分で行うことも可能ですし、国家資格を有する弁理士に依頼して出願してもらうことも可能ですが、どのように特許請求の範囲、明細書を作成していくかの判断は特許の取得可否を大きく左右する重要な部分となりますので、専門家に相談すると良いでしょう。


まとめ


この記事では、AI関連技術の特許の伸び、なぜAI関連技術を今取得すべきなのかを説明してきました。
クロスコンパスでは、当たり前の「技能」を、AIで「技術」にして、AI関連技術として特許取得することをお勧めしています。

クロスコンパスでは、AI関連技術の特許取得のための「知財コンサルティング」のサービスから実際のAI開発の「AIコンサルティング」まで、一気通貫でご提供しております。(「知財コンサルティング」の成果は、パートナの弁理士事務所と連携して特許出願まで行うことができます。)

AI関連技術およびAIの知財戦略に関して、お気軽にお問合せください。

 


著:株式会社クロスコンパス 弁理士 青山純

LEAVE A RESPONSE

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です